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運動・トレーニングが遺伝子を変える?
 5年ほど前に,「Q & A 運動と遺伝」という本を監修しました(大修館,2001)。その中に,「運動は遺伝子を変えるか?」という項目があり,「運動は遺伝子のはたらきを調節するが,遺伝子そのものは変えない」と解説しました。これは基本的に正しいのですが,最近の研究から,運動などの環境要因が遺伝子自体の構造を変えるという,驚くべきことが起こる可能性も示されています。

【運動能力と遺伝子】
 運動能力には遺伝的素質が関係しています。実際にどのような遺伝子が関係しているかについても研究が進み,100を超える遺伝子がその候補に上がっています。昨年の12月号(「スポーツ遺伝子」)でご紹介した通り,筋の構造タンパク質である「α-アクチニン3」や,筋の成長を抑制するタンパク質である「ミオスタチン」をつくる遺伝子は,その代表例といえるでしょう。これらの遺伝子には「多型」といって,個人間に小さな差異があり,つくられるタンパク質の機能にも個人差が生じます。

【遺伝子の発現とその調節】
 ヒトには約3万個の遺伝子があります。しかし,すべての遺伝子が常時はたらいているわけではなく,必要なときに必要な遺伝子がはたらき,目的とするタンパク質がつくられます。遺伝子からタンパク質がつくられることを「遺伝子の発現」といい,遺伝子発現のスイッチをオンにしたりオフにしたりすることを「遺伝子発現の調節」といいます。例えば,筋力トレーニングをすると,筋ではその成長を促すIGF-IやIGF-IIなどの成長因子の遺伝子発現が上昇し,逆に筋の成長を抑制するミオスタチンの遺伝子発現が低下します。これらの遺伝子に多型があれば,同じトレーニングをしても,その効果には個人差が生じることになります。

【トレーニングの「くりかえし効果」と「長期記憶」】
 上記のメカニズムは遺伝子のはたらきの基本ですが,実はトレーニングの効果を完全には説明できません。経験からわかるように,筋力トレーニングを1回行っても,その効果はすぐには現れません。4週間,8週間とトレーニングを続けることで初めて,筋の成長に関連した遺伝子の発現に持続的な変化が現れます。これを「くりかえし効果」と呼ぶことができます。一方,2回/週以上の頻度でトレーニングを行って増加した筋力は,その後1回/週程度に頻度を落としても維持できたり,トレーニングのキャリアが長いほど,トレーニングを中断した後の筋力低下の速度が遅かったりします。これは,トレーニング効果の「長期記憶」と呼ぶことができます。いずれも,単純な遺伝子発現の調節では説明できず,未解明の問題です。

【一卵性双生児の共通点と相違点】
 これらの問題に対するヒントが,Estellerら(2005)による一卵性双生児の研究の中に隠されています。一卵性双生児は,全く同一の遺伝子をもっています。Komiら(1976)の研究によれば,筋の速筋線維と遅筋線維の割合も,一卵性双生児では同じになります。したがって,運動機能でも類似している可能性が高く,マラソンの宗兄弟などはそのよい例といえます。一方,疫学的研究から,一卵性双生児が必ずしも同じ病気で死亡するわけではないことなども知られています。Estellerらは,80組の一卵性双生児について,全ての遺伝子の発現を網羅的に調べました。その結果,たとえ遺伝子は同じでも,個々の遺伝子の発現には差があり,その差が年齢とともに大きくなることがわかりました。この結果は,生活環境の違いが,蓄積的に,そして長期にわたって遺伝子発現に影響を及ぼすことを示唆しています。運動やトレーニングにも同様の効果があるものと考えられます。

【環境が遺伝子を変えるしくみ】
 このように,環境が長期にわたって遺伝子発現に影響を及ぼすしくみに,遺伝子の構造の変化が関わっているという説が提唱されています。とはいっても,遺伝情報そのものが「書き変えられる」わけではありません。遺伝子はDNAでできた長い糸状構造をしています。この糸の上に遺伝情報が一列に並んでいる,いわば長い磁気テープのようなものです。細胞の核の中では,この長いDNAの糸が,「ヒストン」という「糸巻き」のような形をしたタンパク質に巻きとられ,整然とコンパクトに収納されています。環境の刺激が加わると,隣り合う糸上のDNAどうしが,「メチル化」という反応によって結合することが起こります。さらに,ヒストンにも徐々に変化が起こり,別種のタンパク質がこれに結合することで,「ケバケバ」が生えたようになります。これらの構造変化が起こると,DNAの糸が「ぐれにくく」なります。その結果,特定の遺伝子の発現が長期にわたって抑制され,相補的に別の遺伝子の発現が増強されるのではないかと考えられています。

【継続と習慣化の重要性】
 こうした遺伝子の構造変化は,まだ仮説の段階ですが,2つの重要なことを示唆しています。ひとつは,遺伝子は必ずしもスポーツ能力の決定的要因ではないこと。もうひとつは,運動やトレーニングを継続し,習慣化することの重要性です。それにより,運動の効果が遺伝子上にある程度定着する可能性も考えられます。



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