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コーチ
はじめてメールいたします。いつも書籍を楽しく拝見させていただいています。高妻先生は空手の高段者であり、空手の精神鍛錬メソッドをメンタルトレーニングに導入されて実践されており、独自の手法をいくつも行われております。また過去の質問の中には、武道から発信できる日本的なメンタルトレーニング法についての質問もあり、大変興味深く拝見させていただきました。 私が質問させていただきたいことは、武道と古流武道(古武術)の精神鍛錬法の違いについてです。武道は、現代武道であり、勝つことを目的としたスポーツの要素が多い一方、古武術などは戦いを前提としており、負けなければよい、という考えが根本にあると聞いたことがあります。古武道・古武術の多くは試合形式ではなく、型の習得が主であることも、武道と違うところです。現代武道より、古流武術・古武道に、より日本的なメンタルトレーニングがあるのではないのかなと思っています。また、このようなことを研究すると、日本人の為にとても価値があるのではないかなと思います。高妻先生は、この点についてどのようなお考えをおもちでしょうか。よろしくお願いいたします。

おっしゃる通り、現代の柔道・剣道・空手等は、試合で勝つためのトレーニングが主流になっており、国体・全日本・国際大会でもいかにして勝つかという目的でやっているように感じます。これは、武道というよりスポーツだと感じています。質問では、武道と古武道を分けておられるようですが、私は武道の中に古武道も含まれると思っています。

 私は、20代のころアメリカに約5年留学し、大学の空手クラブで1000名以上の外国人に指導しました。最初のころは、日本の武道を伝えたいという思いが強く、1回目の練習で日本式の稽古をしたところ、2回目には40名以上いた生徒が1名しか返ってこなかったのです。そこで、考え方をあらためてアメリカ人が興味を持つような指導法に変えたことがあります。たとえば、なぜこの練習をするのかという目的やなぜこのような動き(技)を使うのかという説明・解説をする必要がありました。とにかく、こんなことまでというような質問が来るのです。日本では、「こうやれ」「押忍」の一言ですんでいましたので…

 また興味深いことに、伝統系の空手を学ぶ人は、形に興味を持ち、「形は動く禅だ!」というのです。また多くの人から「禅」に関する質問が多くあり、勉強不足であった私は、日本から5冊の禅に関する本を送ってもらい、そこから学び、空手の伝統的な形、剣術界にある「剣禅一如」という言葉の意味を自分なりに解釈し、剣術の稽古(技や体)のトレーニングと一緒に禅(メンタル面)も強化していたのだということです。アメリカの大学院でスポーツ心理学やメンタルトレーニングを学ぶうちに、自分のやっている空手にスポーツ心理学のメンタルトレーニングを組み合わせ、現代版の武道を作り上げようと思いました。

 興味深いことに、西洋のスポーツ心理学者たちの多くが、ヨガ・禅・武道・太極拳・カンフーなどの中国武術に興味を持ち実践しながら、研究をしている事実があります。1986年頃にアメリカのオリンピックチームにメンタルトレーニングを導入した当時のトップの先生を日本に招待し、講演をしてもらった折に、日本のメンタルトレーニングを紹介したところ、「なぜ、西洋の真似をするのだ!お前は空手の達人だろう。なぜそれを応用しない。われわれは、東洋の神秘と言われるものに興味を持ち、研究し、メンタルトレーニングを作り上げたのだ」と言われたことが強く心に残っています。

 今のスポーツ界は、スポーツ科学が当たり前であり、これがないとオリンピックでは勝てない時代です。私が勤務する東海大学体育学部は、スポーツ科学を勉強する学部であり、大学院でも「スポーツ科学・応用スポーツ科学・指導者育成」という3つの柱があります。たとえば、日本体育大学でも英語の表記にはスポーツ科学があり、福岡大学や中京大学の体育学部はスポーツ科学部に名前が変わっています。つまり、学問的な背景や研究や実験等で科学的に分析され、より効果的な方法が見つかり、それを応用することで、より効率的に学ぶ時代になってきました。

 一方、日本の伝統的な武道では、先人たちが試行錯誤をして、長い時間をかけて、より合理的な方法を見つけ伝えてきました。しかし、中にはスポーツ科学に反する方法があったり、スポーツ科学の理論に当てはまる方法もたくさんあります。

 私がアメリカに留学した1980年代のはじめに、宮本武蔵の「五輪の書」が英語に訳され、ベストセラーになったことがありました。そこでは、日本の躍進の裏には、「この五輪の書の内容があるはずだ」という話を聞いたときに、目からうろこが落ちた思いがありました。実は、この五輪の書は、現代でも使えるメンタルトレーニングの本であると強く感じます。宮本武蔵が、自分の経験から生み出した理論がスポーツ科学で見出した理論にかみ合うのです。

 実は、メンタルとレーニングの基本は、世界のトップアスリートがなぜ勝てるのかを徹底して分析したときに、勝てる・トップアスリートが共通して実施している心理的スキルをプログラム化したものなのです。つまり、世界のトップレベルの選手が行きついた方法を科学的に分析し、誰でも使えるようにしたと考えればいかがでしょうか?

 私の指導するメンタルトレーニングには、武道の呼吸法・気合(呼吸)・イメージ(形)・気持ちの切り替え・集中の仕方などをうまく組み合わせ、また空手の練習には、呼吸法としての音楽利用・リラクセーションでマインドフルネス(メディテーション等)・サイキングアップで気持ちのノリを作る心のウォーミングアップ・パートナーワークでのコミュニケーションスキル・イメージトレーニングとしての形の練習・集中力を高める空手の技や関節技、さらに古武道の技を取り入れてのイメージトレーニングなどを活用しています。


 何かの参考になれば幸いです。


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